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Article 知財インサイト

2024.11.28

≪連載≫ インドの商標制度 -外国商標制度その5-

今回は、経済成長が著しいインドの商標制度を見てみたいと思います。

インドは、基本は旧英国流の商標登録制度です。よって、コモンローによる保護(Passing Offなど)があります。

インドでは、通常の商標権は商標登録によって発生しますが、コモンローによる保護は商標の使用によって発生します。また、商標登録の優先順位の決定においては、先使用主義を採用しています。

商標の使用は、商標出願時の絶対的な条件ではないのですが、出願商標が競合する場合、最先に使用を開始した出願人に商標登録が認められます(先使用主義)。

インドの年間の出願件数は45万件、登録件数は25万件程度です。

商標出願時

インド国内における使用の有無(「使用に基づく出願」か「使用意思に基づく出願」)を選択する必要があります。

日本の商標制度は、使用意思に基づく出願だけですが、インドでは、使用に基づく出願、使用意思に基づく出願を選択できます。日本企業は、使用意思に基づく出願をすることが多いですが、競合する商標があるような場合は、使用に基づく出願を選択してください。

侵害がある等の理由で早期審査の必要性がある場合は、費用は必要ですが、早期審査が可能です。

使用に基づく出願の場合、最先の使用開始日(年月日)と使用期間、使用の詳細を記載した嘆願書(affidavit)および使用の証拠を提出します。

引用商標に打ち勝つため、また、異議で勝つためには、先使用を証明することが必要になります。その場合、インボイスが決定打になります。すぐにインボイスが出て来るように、商標管理者は、インボイスの保管者と連絡を密に取っておく必要があります。

審査時

1)審査期間

審査期間は、審査着手までが1か月程度であり、異議もなければ7カ月で登録になります。しかし、後述のように異議があると、途端に長期の処理期間となります。

2)ヒアリング(意見書、補正書を補うもの)

意見書、補正書はありますが、ヒアリングが活用されています。何度もヒアリングを繰り返すこともあります。

3)審判制度(IPAB: Intellectual Property Appellate Board)が無くなった

審判制度は、そもそもは米国流の制度です。旧英国法系のインドで、近年、審判制度を採用したのですが、上手くいきませんでした。

旧英国法系の審査の考え方では、審査官が判断の主体者で、審査官の権限が高いように感じられます。

審査(査定)への不服申立は、高等裁判所への訴訟となります。

4)異議申立

異議申立は、商標出願の公告日から4か月以内です(付与前異議)。

異議は準司法的手続であり、異議があると途端に審査期間が長くなります。5年~10年もかかることがあるようです。現在、インドでは、異議申立審理期間の長期化への対応が問題になっています。

インド人は商標登録異議申立を好みます。政府の審査に対する信頼性が低いので、自分の権利は自分で守るという意識が高いようです。

制度面

1)周知(著名)商標登録制度

2017年から、周知(著名)商標(Well-Known Trademark)登録制度がスタートしました。インドの商標について、周知商標の認定が多いようですが、TOYOTA、EPSONなどの日本企業の商標も、周知商標登録されているようです。

周知商標と認定されると、非類似の商品・サービスについても、後願を拒絶する根拠となります。ただし、拒絶するには、権利者の異議申立が必要です。

2)旧英法系の商標制度

他の英法系諸国と同様に、連合商標(防護は無くなっていますが、連合は残っています)、シリーズ商標、同意書、権利不要求、誠実な同時使用の原則、などの制度があります。


2024年10月25日
弁理士 西野吉徳