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2025.01.31

≪連載≫ 台湾の商標制度について-外国商標制度その6-

今月は、台湾の商標制度を概観したいと思います。台湾は、日本から距離的にも近く、日本企業の輸出先/事業展開先として、以前から人気があります。

台湾の商標制度は、(韓国や中国と同様に、)日本の制度によく似た類似群コードを採用するなど、日本の商標制度に近い点が多く、比較的理解しやすい制度です。しかし、出願人名の中国語表示の問題や、ひらがな/カタカナの取扱い、同意書や権利不要求などの英米法的な法理論の継受など、思った以上に複合的な商標法となっています。

登録主義、審査主義、先願出願

登録から10年の権利であり、日本と同様に、絶対的登録理由、相対的登録理由が審査されます。他人の商標出願との関係は、先後願を基準に判断する先願主義です。

出願人名

日本の商標登録出願人名は、中国語の繁体字に変換する必要があります。漢字の名称は良いですが、平仮名、片仮名、アルファベットの社名の場合は、中国語の社名を検討しないいけないという点は、中国と同様です。ある程度の規模の企業でも、事業自体は英語でやっていたりして、台湾への商標出願時、中国への商標出願時に、はじめてこの問題に直面する企業も多いと思います。

マドプロ未加盟、パリ条約未加盟

台湾はマドプロに未加盟です。台湾を指定した商標出願をする場合は、台湾へ直接出願をする必要があります。

また、パリ条約にも入っていません。

優先権

パリ条約上の優先権はないのですが、台湾が2002年にWTO協定に加盟したので、WTO協定に基づき、日本の商標出願に基づく優先権主張が可能です。

必要書類

委任状の添付が必要です(公証、認証は不要)。

国際分類と指定商品・指定役務の表現と個数

ニース協定には未加盟ですが、国際分類を採用しています。

日本と同様に、類似群コードを採用しています。しかし、日本とは異なり、「電子応用機械器具」のような包括的は使用できず、基本的には、ニース協定の個別の商品・役務の指定となります。この点は、中国、韓国、台湾とも同様です。

指定商品の個数で特許庁のOfficial Feeが変る仕組みを採用しています。中国やタイと同様です。

日本語商標の取扱い

日本の商標でも、漢字の商標は、中国語の発音を中心にして審査されます。ただし、「日立」や「東芝」は、台湾でも知られているので、「HITACHI」「TOSHIBA」という称呼も生じます。

また、ひらがな/カタカナの商標の場合ですが、図形商標としてではなく、可読な表音文字と認識され、文字商標として、識別力や先行商標との類否などの審査がされます。

早期審査

早期審査が採用されました。ただし、日本とは、早期審査の内容できる条件が、若干、異なります。

権利不要求あり、同意書制度あり

日本には存在しない権利不要求の制度があります。

また、以前から、同意書での先行引用商標の克服を認めていました。

これらの点から、英米商標法の考え方も取り入れていることが分かります。必ずしも認められるわけではないですが、実務では、英米商標法の「誠実な同時使用の原則」(同時に並存して使用しており、問題になっていないのであるから、出所混同等は生じていないという考え)の主張などもすることがあります。

登録後公告制度、異議申立

日本と同様に、商標登録後の異議申立の制度です。付与前異議ではありません。

異議申立期間は、登録公告後、3ヶ月以内です。

不服申立(訴願)

台湾特許庁(TIPO)の拒絶査定や無効審判の審決に不服がある場合は、訴願法に従い行政不服申立を行います。そして、訴願による決定を受けた後に、知的財産裁判所に、拒絶査定や審決の取消を求めることができます。その判決に対する不服申立は、最高行政裁判所に提起可能です。

権利範囲

台湾商標法では、輸入だけではなく、輸出も実施行為になっています(商標法第5条)。

2024年5月に改正台湾商標法が施行されました

特徴的な内容は、以下です。

①商標代理人の資格の創出:商標出願について、特許や意匠と異なり代理人資格が必要なかったのですが、商標代理人の資格が創設されました。

②早期審査:上述のように、早期審査が導入されました。

③著名な法人、商号又はその他の団体の名称の保護の拡大:従来から、著名な法人、商号又はその他の団体の名称と「同一」のものは拒絶されてきましたが、今後はそれらに「類似」のものも拒絶されます。

④指示的フェアユースの明文化:改正前の商標法にも記述的フェアユース(descriptive fair use)に関する規定がありましたが、改正後の商標法では、指示的フェアユース (Nominative Fair Use)も、商標侵害を成立させない事由として明記されました。フェアユースは、米国商標法の概念です。この規定は、台湾が米国法の影響を受けているものと考えられます。

2025年1月27日

弁理士 西野吉徳