≪連載≫ ベトナムの商標制度について-外国商標制度その8-
近年、日本とベトナムの経済関係は非常に活発であり、両国間の関係は深まっています。ベトナムから来日する技能実習生や留学生も多く、読者の皆さんも日本とベトナムの関係の重要性を体感されていると思います。
日本企業がベトナムに製造工場を作ることも多く、また日本の観光業やサービス業の進出先ともなってきており、弊所でも多くの依頼者からベトナムでの商標登録のご要望を受けています。
今後ますます重要となるベトナムですが、その商標制度は、他国と少し違うところがあり、その点を中心に、ご説明したいと思います。
(2022年に改正知的財産法が施行されています。)
審査主義、登録主義、先願主義
ベトナムは、日本と同様に、絶対的不登録理由と相対的不登録理由を、審査官が審査する「審査主義」、商標権は登録によって発生するという「登録主義」、出願が競合したときは最先の出願人が権利を取得するという「先願主義」を採用しています。
2022年法改正で、異議申立や無効審判において「悪意」の出願人の主張が可能であると明文化されました。
周知商標の保護が厚い
アルファベットではない(ベトナム語もアルファベットで表記)、漢字、平仮名、片仮名、ハングル(一般的に使用されていない言語)だけからなる商標は、識別力が無いとされます。例えば、もともと日本語の商標であった場合には、登録取得のためには、アルファベットや図形要素の追加が必要になります。この点が、ベトナム商標実務で一番、大きな点です。
マドプロでも、審査は同様ですので、ベトナムは直接出願しないといけないということもあります。
ベトナム語以外は翻訳や音訳が必要
外国語からなる商標は、出願時にベトナム語への翻訳や音訳が必要になります。
出願公開、異議申立(意見提示)、審査期間
方式審査が終わると出願公開されます(出願から約3か月後)。出願公開されると、何人も異議申立が可能です。審査の処理期限が法律で定められており、原則として、出願公開後9ヶ月以内に処理されます。(なお、実務では審査期間が22-24か月になることもあるようです。方式審査に遅れがでているという情報があります。)
審査官は、異議申立を参考にして審査します。ブラジルと同様な制度であり、そのため、ベトナムでは商標ウォッチングが重要となります。
特殊な拒絶理由
日本でも、1996年改正以前は、権利が消滅してから1年間は、残存信用があるとして、失効した権利に後願排除効がありました。
この点、ベトナムは、以前の日本と同様であり、しかも失効後3年間は後願排除が可能です(最近まで5年でしたが、現在は3年になりました)。マドプロで拒絶を受けたときなど、驚かれるかもしれません。
更新(登録証に裏書)
更新時に登録証の提出は義務ではないのですが、更新に際して、原登録証を提出すると裏書をしてもらえます。更新した旨は公告はされますが、更新したことを証明する書面は発行されないので、ベトナムの更新実務では登録証への裏書が重要です。以前は、台湾が同様に裏書をしていましたが、現在は、主要国ではベトナムぐらいです。この意味で、原登録証の保管が必要になります。
マドプロに加盟している
ベトナムはマドプロに加盟しています。ただし、前述のように、日本語商標のときは注意が必要です。
その他
(1)指定商品の数とオフィシャルフィー
指定商品・役務が6個までが基本で、それを超えると1商品・役務毎に費用が必要となります。
(2)小売業の保護
小売り業の保護が認められています。
(3)不使用取消は、5年間の不使用
不使用取消期間が5年以上あるときは、不使用取消を請求し、権利を取消すことが可能です。
(4)権利不要求
権利不要求の制度があり、識別力の無い部分があっても、その部分を権利不要求することで登録されます。
(5)同意書
同意書は、審査官の裁量により認められます。
(6)「誠実な同時使用」「先行使用の主張」が有効なことがある
周知商標の保護が厚い点、同意書、権利不要求、誠実な同時使用など、英米法的な諸制度も採用しており、登録主義(先願主義)と使用主義(先使用主義)がミックスされている法制です。
2025年3月27日
弁理士 西野吉徳