登録商標「ゴールデンウイーク」から考える識別力
今回は、商標登録の可否を左右する重要な要素である、識別力について考察しました。識別力の判断は、専門家にとっても非常に判断が難しいものです。
識別力がないから大丈夫と安易に考えず、慎重に検討をすることが、企業の信用やブランド価値を損なうリスクを減らすことにつながります。
識別力の判断の難しさ
皆様は、「ゴールデンウイーク」が登録商標であることはご存じでしょうか?
保険の分野、酒類の分野で下記のような登録商標があります。
「ゴールデンウイーク」のような一般的に使用されている用語が登録されていることに驚きを覚える方も多いと思います。このような商標が登録されるかどうかは、商標の「識別力」が大きなポイントとなります。
商標の「識別力」は、商品やサービスの出所を消費者が認識できる能力を指すもので、商標登録の可否を左右する重要な要素となっています。しかし、識別力の判断は一筋縄ではいかず、一般的な用語の組み合わせや略語の場合、また選択する区分によっては、その評価はさらに複雑です。近年では、識別力の判断を巡って議論や炎上が発生するケースも見られます。
識別力の基本とその判断基準
商標法第3条第1項では、識別力がない商標は登録できないと規定されています。例えば、指定商品「アルミニウム」に対して「アルミニウム」または「アルミ」、指定商品「シャツ」に対して「特別仕立」など、これらは、消費者が特定の出所を認識しにくいため、商標としての機能を果たしにくいとされています。
一般的な用語の組み合わせや、区分による識別力の発生
一般的な用語や略語であっても、組み合わせ方や使用状況、指定する区分によっては識別力が認められる場合があります。例えば、略語が業界で一般的に使用されていない場合や、特定の企業が独自に使用しており、消費者が特定の出所を認識できると判断される場合や、指定する商品によっては、識別力があると判断されることもあるでしょう。
冒頭の「ゴールデンウイーク」も当時としては、識別力がある言葉と判断されたのかもしれませんし、指定した区分においては、識別力があると判断されたのかもしれません。
時代や分野、その時々の様々な状況によって識別力の有無が変わるため、慎重な判断が求められます。
最近の識別力に関する事例
最近では、識別力の判断を巡って社会的な議論や炎上が発生するケースも見られます。例えば、最近の事例で言えば、「AI Coding」(商願2025-33789)が出願されましたが、特定の企業に独占されるべき商標ではないとの批判を受けた事例がありました。このような事例では、出願人が商標出願を取り下げる意向を示すなど、対応に追われる事態となることもあります。
一方で、上記の「AI Coding」には、別の区分ではありますが、過去に同じ名称での登録例(第4573754号)があります。
商標の識別力は、時代や選択する区分によっても判断が異なる流動的なものです。
現在では一般的な用語になりつつあったとしても、過去の登録例がある場合は今回も登録になる可能性も踏まえ、他者に先取りされるリスクを回避するため、自社のビジネス保護のために、あえて出願するということもあるでしょう。
慎重な判断と専門家の助言の重要性
上記の事例は、識別力の判断が難しいこと、商標を登録する際のリスク検討の重要性を示す一つの事例であると思います。 識別力が曖昧な商標を登録するべきか否か、は非常に難しい判断です。一般的な用語だからいいだろうと安易に使用し、実は他者の登録商標であったことが後から判明して商標変更を迫られるケースもあります。一方で、登録可能性といった法的な問題だけでなく、社会的な批判や炎上のリスクが伴うのではないか、とった観点での検討も必要です。そのため、識別力が微妙で判断に迷う際は、専門部署や専門家と慎重に検討する必要があります。
まとめ
昨今の傾向として、インターネット上での炎上が起きやすい傾向がありますが、過剰に恐れて必要な対応を取らないのは悪手です。他者の登録事例がないか等、使用の安全性を確認することは不可欠です。
しっかりと確認した上で、その後に、出願するべきかどうかを社内基準に照らし検討し、又は専門部署等に相談した上で、方向性を決めることが、企業の信用やブランド価値を損なうリスクを減らすことになります。
2025年4月27日
弁理士 淡路里美