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2025.08.06

≪連載≫ フィリピンの商標制度について-外国商標制度その12-

商標登録の維持に使用証拠の提出が必要な米国的な制度です。外国商標の実務の世界では注意を要する国の一つです。

外国商標の更新管理は、企業にとっても、特許事務所にとっても、ミスが許されないものであり、米国、フィリピン、アルゼンチン、メキシコなど、特に使用宣誓のある国は、十分に気をつけておかないといけないという教訓となります。

今月は、フィリピンの商標制度について説明します。フィリピンは、東南アジアの立憲共和制国家であり、7641の島から構成されています。総人口は1億人を超えており、多様な民族と豊かな文化が特徴です。公用語は、タガログ語を母体にしたフィリピン語(=フィリピノ語)と英語です。首都はルソン島のマニラです。

電力等のインフラに課題があり、製造業は強くありません。しかし、若年層の人口比率が高く、また、海外出稼ぎ労働者からの送金が多く、近年はASEAN諸国の中でも高い経済成長をしています。

商標登録の維持に使用証拠の提出が必要な米国的な制度です。外国商標の実務の世界では注意を要する国の一つです。

企業勤務のときに会社の先輩に何度も聞かされた話なのですが、私が入社する前に、フィリピンで更新関係のミスがあり、管理上の大問題になったそうです。

外国商標の更新管理は、企業にとっても、特許事務所にとっても、ミスが許されないものであり、米国、フィリピン、アルゼンチン、メキシコなど、特に使用宣誓のある国は、十分に気をつけておかないといけないという教訓となります。

フィリピンの知財官庁は、フィリピン知的財産庁(Intellectual Property Office of the Phillipines、略称はIPOPHL)です。

フィリピンの商標制度

商標のライフサイクル(生まれてから死ぬまで)の中で、何回かの使用証拠の提出が必要になります。使用証拠を提出できずに、フィリピンで、商標登録出願の再出願をする必要があったなどの経験を有する方も、多いのではないでしょうか。

(1)審査主義、登録主義

審査官が審査をします。また、登録により商標権が発生します。

(2)先願主義

最先の出願人が優先される先願主義です。しかし、後述のように、使用証拠の提出がないと権利が維持できません。通常は、使用証拠の提出=先使用主義が相性が良いように考えますが、優先順位を決めることが容易な「先願主義」と、商標の原理的に優れた「使用主義」の特徴である「使用宣誓書、使用証拠の提出」を折衷した、ユニークな法制度です。以前の更新時の使用証拠提出が必要だった日本の制度に近いのかもしれません。

(3)使用宣誓書、使用証拠の提出

下記のタイミングで、「使用宣誓書(Declaration of Actual Use、略称はDAU)」と「使用証拠」の提出が必要になります。

通常の商標更新期限管理とは別枠で、使用証拠の提出といった権利維持(メンテナンス)の期限管理が必要になります。

①出願日から3年半以内(6か月の延長制度はある)

➁登録後5年を経過した1年以内

③更新登録後の1年以内

④更新登録後5年を経過した1年以内

これを提出しないときは、商標登録が抹消されます。

また、使用していないことにつき、理由があるときは不使用宣誓書という手段もあります。

※期限管理が非常に面倒なので、フィリピンへの商標出願は、外国商標が得意な事務所に任せることをお勧めします。

※マドプロを使ったときのことは後述。

商標の種類

商標は可視標識とされ、立体商標、ホログラム、色彩、位置、動き商標は保護されますが、音、におい、触覚、味覚などは登録できません。

特徴的な制度

(1)同意書

同意書(コンセント)制度が採用されています。

(2)権利不要求

識別力の無い言葉は権利不要求(ディスクレーム)が要求されることがあります。

(3)早期審査(優先審査)

以前登録されていた商標の登録人または譲受人による再出願であって更新可能期間が満了した商標についての出願は、優先審査できることがある。何らかの理由で、更新ができなかったときは、この制度の利用を検討してもよい。

出願時

(1)言語

フィリピン語あるいは英語で出願します。

日本の出願人としては、英語で出願されていると確認も容易です。

(2)出願の基礎(ベース)

「現実の使用に基づく出願」、「使用意思に基づく出願」、「出願人の本国登録に基づく出願」から選択する必要があります。

(3)ニース協定

ニース協定には未加盟ですが、国際分類に準拠しています。

(4)審査期間

審査期間は、半年程度です。

(5)公告制度と異議制度

実体審査の後、出願公告されます。異議申立期間は、公告日から30日以内です。

異議、取消などは、法律事務局に対して行います。

(6)審査に対する不服申立

審査に対する不服は、商標局長に対する再審理申立を行うことができる。更に、その決定に対する不服は、長官への不服申立が可能です。

その他

(1)不使用取消

3年間不使用であれば、不使用取消請求が可能です。

(2)他の取消制度

日本の無効審判に該当するものは、取消制度の対象です。なお、日本と異なり、後発的に一般名称になった場合も、取消請求が可能です。

(3)ライセンス(品質管理条項)

商標ライセンス契約には、品質管理条項が必要であり、品質管理に関する規定がない場合や、品質管理が効果的に行われていない場合、ライセンス契約は無効となります。

(4)パリ条約

パリ条約には、加盟しています。

(5)マドプロ

マドプロには、加盟しています。マドプロの場合の、使用宣誓書、使用証拠の提出については、以下のようになります。

フィリピンでマドプロ出願(国際登録出願)を行った際の、Declaration of Actual Use (DAU) の提出期限日の起算日は、以下の通りとなります。

①出願後3年目:国際登録日、またはフィリピンへの事後指定日から3年以内に提出する必要があります。1回に限り6か月間の延長が可能です,。

➁登録後5周年目:フィリピン知的財産庁(IPOPHL)から保護認容声明(Statement of Grant of Protection)が出された日から5年を経過した後の1年以内に提出する必要があります。延長は認められません。

③更新後: 商標の国際登録の更新日から1年以内に提出する必要があります。 延長は認められません。

④更新登録後5年:商標の国際登録の更新日から5年を経過した後の1年以内に提出する必要があります。 延長は認められません。

2025年7月23日 弁理士 西野吉徳