令和7年度上半期にみる輸入差止の最新動向
本年度上半期の税関の輸入差止は件数・点数とも高水準を継続しています。注目すべき点としては、意匠・著作権侵害や安全リスクの高い電気製品の差し止めが増加している点です。今回は、企業のブランド保護にも関係する税関の差し止め状況についてまとめました。
模倣品などの輸入差止件数、3年連続で高水準
企業経営において、自社製品とブランドの防護は欠かせないものであり、模倣品や偽ブランド品、偽キャラクターグッズなどの流通を阻止することは、重要な課題となっています。
このような問題に対して、税関において知的財産侵害物品を差し止める輸入差止制度が設けられています。
財務省から公表された令和7年度上半期の統計によれば、全国の税関で差し止められた、知的財産侵害物品の輸入差止件数(※1)は17,249件となっています。上半期の輸入差止件数としては3年連続で15,000件を超えており、高い水準で推移しています。
また、知的財産侵害物品の輸入差止点数(※2)は416,531点であり、5年連続で40万点を超えています。
このことから、多くの偽ブランド品、コピー商品などが日本市場へ侵入しようとしている現状が伺えます。今回は、この財務省の統計から、知的財産侵害物品に見られる最新の傾向を見ていきたいと思います。
※1輸入差止件数:税関が差し止めた知的財産侵害物品が含まれていた輸入申告又は郵便物の数
※2輸入差止点数:税関が差し止めた知的財産侵害物品の数
意匠権や著作権侵害の増加
輸入差止件数(税関が差し止めた知的財産侵害物品が含まれていた輸入申告又は郵便物の数)を権利種別で見ると、商標権侵害物品が全体の93.7%(16,339件)と依然として大半を占めています。これに加え、注目したい動きとしては意匠権や著作権侵害物品の増加です。
意匠権侵害の輸入差止件数は前年同期比で141.3%と急増、著作権侵害の輸入差止件数も前年同期比で106.4%と、それぞれ増加傾向にあります。
模倣の手口がブランド名やロゴ(商標)だけでなく、製品そのもののデザイン(意匠)や、創作されたキャラクター(著作物)などにも及んでいることが見受けられます。
安全・健康を脅かすリスクのある物品
輸入差止品を品目で見ると、輸入差止件数においては「バッグ類」「衣類」が継続して上位ですが、輸入差止点数においては、「電気製品」が最多(28,847点)となり、前年同期比で31.4%増加しています。
電気製品にはバッテリー、ドライヤーなどが含まれており、これらの粗悪な模倣品は火災や故障といった重大な事故につながるリスクがあります。
このほか、税関で差し止められた侵害物品の例として、浄水器用カートリッジ、化粧品、加熱たばこ用カートリッジ、自動車用ドアロックストライカーなどが挙げられています。使用することで消費者の健康や安全を脅かす危険性のある物品の輸入差し止めが続いています。
このように模倣品の脅威は、ブランドの信用の失墜や金銭的な損失に留まらず、消費者の安全に関わっており、製造物責任という観点からも注意が必要です。
アジア地域からの輸入差し止めジア地域からの輸入差し止め
仕出国(地域)別で見ると、輸入差止件数の84.3%(14,548件)が中国からのものであり、継続して高水準となっています。次いでベトナム、香港、韓国、マレーシアと続きます。
また輸入差止点数も、中国が最多で全体の70.4%(293,316点)、次いで香港、バングラデシュ、ベトナム、シンガポールとなっています。このように中国を主とするアジア地域が中心となっており、このような地域において継続的な模倣品対策が重要であることが分かります。
国内流通を未然に防ぐ「水際防衛」
このように財務省の最新統計では、模倣品のリスクが継続して高い水準にあり、それがデザインの模倣や安全に関わる製品にまで拡大していることが示されています。
知的財産侵害物品を取り締まる輸入差止制度は、模倣品の被害拡大を防ぐうえで有効な防衛策となっています。知的財産権(商標権や意匠権など)を税関に登録する輸入差止申立てを行うことで、税関において輸入貨物の監視が開始され、侵害の疑いがある物品の持ち込みが阻止されます。
貴社のブランドと事業をリスクから守るために、知的財産権を適切に取得して活用していくことをおすすめいたします。
2025年9月29日 弁理士 松下智子
<出典>
令和7年上半期の税関における知的財産侵害物品の差止状況 (財務省Webサイト)