模倣品対策に有効な立体商標~その登録までの道のりは?
今回は、「きのこの山」を例に、有名な商品の形状を第三者に模倣されないようにする手段の1つとして利用し得る立体商標制度について、ご紹介いたします。
「きのこの山」と模倣品対策
株式会社明治は、2024年9月24日にプレスリリースを発表し、同社の製造・販売するチョコレート菓子である「きのこの山」について、その模倣品を製造していた会社との間に、模倣品の製造・販売を中止することの合意を得たことを発表しました。 同社は、今後も、同社のブランドを毀損する可能性がある模倣品に対して、適切な措置を講じていく、としています。 ニュース記事によりますと、株式会社明治は、「チョコきのこ」というチョコレート菓子を製造・販売していた埼玉県にある菓子メーカーに対して、同社が保有する立体商標に係る商標権を侵害しているとして製造・販売の中止を求め、合意を得た、とのことです。 詳細は詳らかでありませんが、当該埼玉県にある菓子メーカーは、同社の立体商標に係る商標権にかかる立体的形状(菓子の形状)と似通った形の菓子を製造・販売していたものであると考えられます。 では、ここで話題となっている、「立体商標」とはどういったものなのでしょうか?
立体商標について
a.立体商標とは
立体商標とは、その名称のとおり、図形や「立体的形状」からなる商標のことです。 従来、立体的形状からなる標章(マーク)については商標登録は認められていませんでしたが、現実に保護を求める業界のニーズがあること、また、国際的にも立体的な商標に対して権利を与えるのことが一般的になっていることなどから、平成8年(1996年)の制度改正によって導入されたものです。
b.登録事例
では、現状で、具体的にどういった商標が立体商標として登録を受けているのでしょうか。 ここでは、上記の株式会社明治の事例など、いくつかの登録事例をご紹介します。 なお、下記の事例紹介では、便宜上代表的な1枚の図面のみを掲載していますが、実際には、立体的形状の全体像が分かるように、出願時に複数の図面が提出されているものとなります。
登録6031305
権利者:株式会社明治 指定商品:チョコレート菓子(第30類)
登録6764869
権利者:株式会社ベネッセコーポレーション 指定役務:通信教育による知識の教授 ほか(第41類)
登録6757445
権利者:株式会社チェリオジャパン 指定商品:炭酸飲料(第32類)
c.立体商標の登録のための条件
自社の製造・販売等する物品の立体的な形状等について保護を受けることができる立体商標ですが、どういった商標でも商標登録を受けられるわけではありません。 立体的な形状の中には、製造・販売する商品そのものの形状であったり、また商品等の性質の観点から機能的・不可避的な形状といったものがありますが、そういった商標については商標登録は認められません。 現に、上記の「きのこの山」の立体商標についても、一旦は特許庁から識別力がない(チョコレート菓子に通常採用され得る商品の形状を表したものにすぎない)として、登録できないとの判断がされました。 これに対して出願人である株式会社明治は、同社が販売する「きのこの山」の過去の売上や販売する量を示す資料等を提出した上で、菓子の需要者(購買者)が株式会社明治の商品であることを認識できるものであると反論をして、登録となった経緯があります。 すなわち、商品そのものの形状や、商品の機能的に不可避な形状からなる立体的形状は登録できませんから、立体的形状であれば何でも登録できるわけではない、という点には注意が必要となります。 株式会社明治の「きのこの山」については、同社の商品が全国的に著名であると認められたことから例外的に商標登録が認められた事例である、と整理できます。
d.株式会社チェリオジャパンの事例
ここで、上記でもご紹介さしあげた株式会社チェリオジャパンの登録商標(登録6757445)についての審査概要もご紹介いたします。 同商標については、2020年7月22日付で出願がされましたが、一旦は、以下の様な理由で拒絶理由通知(登録できない理由の通知)がされています(一部を筆者が太字にしています)。
この商標登録出願に係る商標(以下「本願商標」といいます。)は、別掲のとおり、側面に色彩、やや特徴のある図形及び模様を有する液体等を格納する飲料の容器を認識させる立体的形状からなるものです。 そして、この商標登録出願に係る指定商品を取り扱う業界においては、商品の包装等に、美感を発揮させるため、または需要者の注意を惹く目的等で、出所を示するための識別標識以外の装飾的な種々の文字、図形及び色彩が使用されている実情があります。
そうすると、本願商標を、この商標登録出願に係る指定商品に使用しても、これに接する需要者、取引者は、その指定商品の包装の一形態であると認識するにとどまるものと判断するのが相当ですから、本願商標は、単に商品の包装の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であって、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものと認めます。 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当します。
上記を要約しますと、以下となります。
炭酸飲料の包装等に関しては、文字以外の様々な装飾的な種々の文字、図形及び色彩が使用されてる実態がある
・このため、そういった装飾的な文字、図形、色彩からなる本件商標を指定商品(炭酸飲料)に使用しても、需要者(購買者)は、指定商品の包装の一形態として認識するにとどまるため、自他商品の識別標識とう商標本来の機能を果たし得ない
結果として、拒絶査定(登録できない決定)がされますが、出願人である株式会社チェリオジャパンはその決定を不服として不服審判(不服の申立て)をし、最終的には登録となっています。
当該審決の要部を以下に紹介します(一部を筆者が太字にしています)。
本願商標は、別掲のとおり、一般的な飲料用ペットボトルの形状と考えられる立体的形状を表し、その蓋部分は緑色であって、また、ボトル本体部分には緑色、黄緑色、黄色及び黒色からなる模様が全体的に施されるとともに、ボトル本体の面積の4分の1から3分の1程度を占めるように、右上から左下にかけて、赤色で縁取られたオレンジ色の複数の曲線等からなる図形(以下「本件図形」という。)を配してなる立体商標である。
そして、本件図形は、一見してそれが何を表したものか判然としないものであって、また、当審において職権により調査するも、本件図形やこれに類する図形が、本願の指定商品を取り扱う分野において、商品の美感や機能等を向上させるための装飾として用いられているというべき事情を発見することはできなかった。
そうすると、本件図形は、本願の指定商品との関係において、商品の美感や機能等を向上させるための装飾として認識されるというよりは、むしろ、特徴的な図形として認識、理解されるものといえ、それ自体が自他商品識別標識としての機能を十分に果たし得るものとみるのが相当であるから、本願商標は、これをその指定商品に使用しても、商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標ということはできない。
一旦は、商品の装飾等としてのみ認識されるものであって、自他商品の識別標章という商標本来の機能を発揮できない、と判断されたものの、不服申し立て段階ではこれが覆り、商品の美感や機能等を向上させるための装飾として認識されるというよりは、むしろ、特徴的な図形として認識、理解されるものであり、自他商品識別標識としての機能を十分に果たし得る、との判断がされたものとなります。
まとめ
今回は、株式会社明治の「きのこの山」に係る立体商標の登録商標の権利行使の関連から、立体商標制度の概要及び商標登録を目指す際の主な注意点について、簡単にご説明させていただきました。
株式会社明治の事例のように、有名となった商品の形状を第三者に模倣される、といったケースに関して、立体商標の商標登録は有効な対抗手段の1つと言えます。 ただ、上記でご紹介させていただいた事例からもお分かりいただけるように、どういった立体的形状でも商標登録できるわけではありませんから、その点にご留意いただいた上で、立体商標制度についても、必要に応じて活用をご検討されてみてはいかがでしょうか。
2024月10月15日
弁理士 浜崎 晃