AI生成のロゴや名称、商標登録できる?~特許庁の最新の制度整理から
近年、生成AI(Generative AI)を活用したサービスが急速に普及し、ビジネスの現場でも商品名の案出しやロゴのデザインといった場面で導入が進んでいます。コスト削減やスピード感のある開発が可能になる一方で、知的財産権との関係については、まだ制度が追いついていない部分もあります。
特許庁でも、生成AIと特許、意匠、商標等各領域において、現在議論がなされているところです。
今回は、特に「商標」と生成AIの関係に注目し、先日公表された産業構造審議会 知的財産分科会 商標制度小委員会の資料に基づき、現時点での整理状況を概観します。
まずは、「特許」や「意匠」との位置づけの違いから見ていきましょう。
特許・意匠との違い “創作”と“選択”
特許や意匠は、発明やデザインといった「創作物」を保護する制度です。たとえば、生成AIが自動で技術的アイデアやデザインを創出した場合、その出力物が特許や意匠として保護され得るかは、「人間による創作性」があるか否かが重要な判断基準となります。
これに対し、商標は「選択物」とされており、無数にある文字列から選択されたネーミング等を、そこに蓄積した事業者の信用を守るために保護する制度です(商標の使用をする者の業務上の信用の維持と需要者の利益の保護を目的とする)。したがって、AIが関与する場合であっても、その基本的な考え方は従来と大きく変わらないというのが現行の理解です。以下に詳しく解説します。
3つの論点
生成AIの発展を踏まえた商標制度の整理においては、特に以下の3点が主要な論点として示されています。
- 「他人の登録商標が含まれるデータをAIに学習させる行為」(学習段階)に商標権の効力が及ぶか
- 「他人の登録商標が含まれるAI生成物を利用する行為」(生成・利用段階)について、商標権侵害の判断はどのようになされるか
- AI生成物を含む商標を出願した場合に、商標登録は認められるか
これらについて、同資料(p.42)では次のように整理されています。
1.について(学習段階での商標権の効力)
「登録商標であっても、AI学習用データとしての利用は、商標法第2条第3項各号に定める商標の「使用」に該当しないため、商標権の効力が及ぶ行為には該当しません」
商標権の侵害とみなされる行為として代表的なものは、登録商標を、その権利範囲として指定されている商品に「使用」することです(商標法第37条第1号)。
この「使用」がどういったものなのかを、商標法第2条第3項各号で定めています。例えば、商品パッケージに、商標を貼り付ける行為は「使用」に該当しますので、商標権の侵害とみなされます。
この点、AI学習用データとして取り込む行為は、この「使用」には該当しないとされ、商標権の効力は及ばないという整理がなされています。
2.について(生成・利用段階での商標権侵害の考え方)
「権利侵害の要件として依拠性は不要であり、また、類似性判断について、AI特有の考慮要素は想定し難いため、AI生成物に関する権利侵害の判断は、従来の商標権侵害の判断と同様である。」
「依拠」とは、既存の著作物に接したうえで、それを自己の作品の中に用いることをいい、「依拠性」は著作権侵害成立要件の1つとされています。
しかし商標は、これまで見てきた通り既存の文字などから「選択」して構成するものなので、商標の世界では「依拠性」は問題となりません。
そのうえで、他人の登録商標と似ているかどうか(類似性)の判断は、従来の枠組みで判断可能であるため、生成AIを利用していない商標と同じ扱いで侵害の成否が判断されるということになります。
3.について(AI生成物の登録可能性の判断)
「商標法は、商標を使用する者の業務上の信用の維持と需要者の利益の保護を目的としており、自然人の創作物の保護を目的とするものではない。そのため、当該商標が自然人により創作されたものか、AI により生成されたものかに関わらず、従来の商標登録出願と同様、商標法第3条及び第4条等に規定された拒絶理由に該当しない限り商標登録を受けることができる。」
2.と少し重なりますが、商標の生成にAIが関与していたか否かは、登録の可否に直接影響するものではなく、あくまで既存の規定に基づいて判断されるという整理がなされています。
まとめ
- 商標制度上、「AIに登録商標を学習させる行為」は「使用」に該当せず、商標権の効力は及びません。
- AIが生成した商標についても、登録や侵害の判断は、従来の商標法の枠組みに基づいて行われます。
現時点では、商標制度における考え方は従来と変わっておらず、そのことを確認したのが今回の制度整理の位置づけといえます。 特許や意匠とは異なる制度趣旨を正しく理解し、冷静に状況を見極めながら対応することが大切です。 生成AIに関する各法分野の今後の動向については、引き続き注視していく必要があるでしょう。
2025年6月19日 弁理士 鈴木愛
<出典>
産業構造審議会 知的財産分科会 第12回商標制度小委員会 議事次第・配布資料一覧(特許庁Webサイト)
※本記事における主な参考資料「資料2 商標制度に関する検討課題について」