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Article 知財インサイト

2025.07.01

≪連載≫ タイの商標制度について-外国商標制度その11-

今月は、タイの商標制度について説明します。タイは、ASEANの創設メンバーであり、経済規模が大きく、製造業、農業、観光業が主要産業です。

30年ほど前に日本の著名商標の冒認登録が多発したことがあり、また、指定商品・指定役務の記載が独特で手間がかかり、外国商標の世界では注意を要する国の一つです。

タイの商標出願は、タイ知的財産局(Department of Intellectual Property、DIP)が担当しています。

タイの商標制度

英国法的な制度、米国法的な制度、タイ独自の制度が混在とした、ユニークな商標制度です。

(1)英国法的な制度

権利不要求の制度、パッシングオフ、商標ライセンス登録をしないとライセンスが有効にならない制度、過去に連合商標があった点、などです。

(2)米国法的な制度

審判制度(商標委員会)を設けている点です。

(3)独自な制度

指定商品(役務)の個数で、料金が決まる制度の先駆けです。また、ニース協定には従うものの、ニース協定自体は加盟していません。

審査主義、先願主義、登録主義

タイは、

(1)審査官が全ての登録要件を審査する「審査主義」

(2)出願が競合した場合に最先の出願人が権利を得る「先願主義」

(3)登録により商標権が発生するという意味での「登録主義」

を採用しています。日本人には理解しやすい制度です。

出願時

(1)委任状

委任状が必要です。委任状には公証人認証が必要です。包括委任状は可能です。

(2)区分

国際分類が採用されています。区分等は同じです。

(3)指定商品(役務)の数で、出願料金・登録料金・更新費用が高くなる

5項目までが一定料金で、5項目超になると別途料金支払いが必要です。料金で指定商品を絞る制度の先駆けです。

(4)多区分出願は可能

多区分出願は可能なのですが、現地代理人は、出願分割ができないことを理由にして、単区分出願を勧めてきます。

(5)指定商品(役務)はタイ語で記載する

日本の依頼人は、英語で指定商品(役務)について、オーダーしますが、タイ語に変換してから、出願します。現地代理人には、英語とタイ語で、微妙な調整をしているようです。

(6)外国語商標

商標が外国文字を含む場合は、その意味を願書に記載しなければなりません。

審査時

(1)指定商品(役務)の表現

ニース協定をガイドラインとして使用するものの、ニース協定自体には加盟していません。ニース協定通りの商品・役務でも、更に、細かい用途や機能を求められることが多いです。また、厳しい審査官にあたると、なかなかOKが出ません。指定商品(役務)を多数記載すると、厳しいチェックに合うという感じがします。

(2)早期審査(ファストトラック審査)

審査期間は、約10~18か月程度と長めです。

なお、指定商品が、一定の基準に合致しているときは、出願時にファストトラック審査の請求をすることで、早期審査の対象になります(1区分出願であること。指定商品(役務)はDIPのリスト通りのもので、10個以下であること。早期審査をすべき理由の明示。先行調査結果の添付が必要)。

(3)識別力の判断

識別力の判断は厳しめです。

外国語の商標は、出願時に外国語の音訳や意味訳についての資料の提出が要求され、それに基づいて識別力が審査され、拒絶されることがあります。

また、例えば「ABC」のような、単語として辞書に載っていないアルファベットの組み合わせは、①使用による識別力の獲得があるか、②図形の要素を含まないと、登録することができなかったのですが、最近は、この点、緩和されてきています。実際は、現地代理人に確認が必要な点です。

(4)公告制度と異議制度

審査官が登録すべきと判断したときは、出願公告されます。

出願公告から、60日間、異議申立が可能です(付与前異議)。異議があった場合において、出願人が応答しないと出願は放棄したものとみなされます。

(5)同意書

同意書は運用されていますが、必ず認められる訳ではありません。

(6)権利不要求

権利不要求の制度があります。

(7)不服申立

審査に対する不服は、審判レベルの商標委員会に対して行います。日本のように、審査官に対して、意見書を提出することはできません。

その他

(1)不使用取消

3年間不使用であれば、不使用取消請求が可能です。しかし、挙証責任が、不使用取消請求人側にあるので、なかなか不使用取消は認められないようです。なお、最近は、訴訟等で、不使用取消が認められたケースがあり、話題になっています。

(2)他の取消制度

日本の無効審判に該当するものは、取消制度の対象です。なお、日本と異なり、一般名称になった場合も、取消請求が可能です。

(3)著名商標の登録制度は廃止

2005年から運用されていた、著名商標の登録制度(区分を関係なく、著名商標を保護する制度)は、2015年に制度は無くなっています。

(4)パリ条約

パリ条約には、加盟しています。

(5)マドプロ

マドプロには、加盟しています。なお、マドプロの場合は、ファストトラック審査の対象外です。

(6)商標ライセンス

商標ライセンスはDIPに登録しないと契約が有効になりません。行政が契約の有効性についてチェックする英国法系のRegistered Userの制度です。

商標権者(ライセンサー)は、ライセンシーの品質管理をしなければならず、そのような管理を行わない場合、ライセンス契約の登録の取消の原因となる可能性があります。

(7)経済警察

ユニークな組織としては、タイには、経済警察があり、レイドや差し押えを行います。

2025年6月23日 弁理士 西野吉徳