【世界事例に学ぶ】ルイ・ヴィトンやシャネルが提訴した「ブランドリメイク」のリスク
昨今のSDGsへの意識の高まりから、古着や廃棄予定の製品に新しい価値を吹き込む「アップサイクル」がビジネスとして注目を集めています。しかし、この良かれと思って始めた取り組みが、ブランドの権利(商標権)を侵害するリスクもあります。 今回は、ブランド品の再加工(リメイク)について問題となった、韓国や中国でのルイ・ヴィトンの事例や、米国でのシャネルの事例をご紹介します。
「商標権の消尽」について
通常、ブランド品が一度適法に販売されると、その商品に対する商標権の効力は「使い果たされた(消尽した)」とみなされます。だからこそ、私たちは中古品を自由に転売したり、古着屋で売買したりできるのです。
しかし、このルールには「商品の同一性が保たれていること」という大きな前提があります。
今回紹介する事例では、バッグを解体して別のアイテム(財布など)にしたり、服のパーツを使用してアクセサリーにしたりする行為が行われており、元の商品の形を崩して「別のもの」が生み出されていました。この場合、法的には中古品の流通ではなく「ブランド商標を無断で利用した新製品の製造」へと、意味合いが変わってしまいます。
【韓国】ルイ・ヴィトン再加工(リメイク)訴訟
2022年、韓国において、ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)は、顧客から預かった真正品のバッグを別の形状(財布や別のバッグなど)に作り変えるサービスを提供していたリメイク業者に対して提訴しました。
被告となった業者は、顧客から提供されたルイヴィトンの製品を解体し、その皮革や生地を裁断・再利用して、元の製品とはサイズ、形状、用途が異なる「全く新しい製品(財布や別の形状のバッグなど)」を作り出していました。リメイク後の製品においても、ルイ・ヴィトンの著名な登録商標(ロゴやモノグラム柄など)が、外観上明確に認識できる状態となっていました。
被告側は、「一度適法に販売された商品(真正品)の商標権は消尽している(権利者はその後の流通や使用に権利を行使できない)」という「権利の消尽」を主張しています。
しかし裁判の一審・二審では、この業者の行為が「商標権侵害」と認定されました。裁判では、バッグを財布に作り変える行為は単なる「修理」の範囲を完全に超えており、実質的に「新たな商品の生産」にあたると指摘されており、たとえ材料が顧客の持ち込みであっても、その加工によって商標の「出所表示機能(誰が作ったかを示す役割)」や「品質保証機能」が害される以上、ブランド側の許諾が必要であるという判断が下されています。本件は、現在、韓国大法院(最高裁)で審理中であり、最終的な判断が待たれます。
【中国】アップサイクルは商標権侵害の言い訳にならない
中国でも同様に、ルイ・ヴィトンのロゴや生地を再利用したリメイク品に対する訴訟がありました。
被告は、中古のルイヴィトンのバッグを入手して解体(裁断)し、その皮革を再利用して元のバッグと異なる形状のバッグを製造しており、韓国のケースと同様、ルイ・ヴィトンのロゴやモノグラム柄が目立つものでした。
裁判所は、使用された革が本当に真正なルイ・ヴィトン製品から取られたものであるとしても、ルイ・ヴィトンの許可なく、その商標ロゴを目立つ形で使用して新たな商品を販売する行為は、中国商標法における侵害に当たると判断しました。
リサイクルや再利用がサステナビリティ(持続可能性)の目標に合致することは認めつつも、それが他者の知的財産権を侵害する免罪符にはならないと明言されています。アップサイクルという名目であっても、ブランドロゴの知名度を利用して利益を得ることは、商標権者の市場を不当に侵食する行為として、賠償の対象となることが改めて示されました。
【米国】シャネルの「ボタン」が招いた混同リスク
過去には、ブランド品の再加工について問題となった事件として、米国でのシャネル(CHANEL)のケースもあります。
シャネルは、シャネルの古い衣服から「ココマーク」が入った本物のボタンを取り外し、それを加工してネックレスやイヤリングとして販売していた業者「Shiver + Duke(シバー+デューク)」に対し、商標権侵害、不正競争、および商標の希釈化(ブランド価値の毀損)にあたると主張しました。
この事例において、「購入後の混同」という概念が主張されています。たとえ購入者がリメイク品だと納得していても、そのアクセサリーを身につけている人を街で見かけた第三者は、「シャネルの新作ジュエリーだ」と誤認してしまいます。この「第三者の誤認」が生じる以上、ブランドの価値が守られないと訴えました。
最終的に両者は和解に至り、裁判所による判決は出されませんでしたが、結果として当該業者のサイトからシャネルのロゴ入りリメイク品は削除され、事実上の販売停止となっています。
リメイク事業において注意すべきポイント
過去に日本でも、古着のジーンズを、そのジーンズに付いていたブランドの商標(ロゴやタグなど)がそのまま付けられた状態でバッグにリメイクして販売した者が逮捕される事例もありました。
昨今のリメイク・アップサイクルビジネスにおいて、ブランド素材を扱う際には、以下のポイントに注意すべきと考えられます。
- ロゴや刻印の残存を確認する:リメイク後の製品に、元のブランドロゴ、ネームタグ、ボタンの刻印などが残っている場合、権利侵害のリスクは極めて高くなります。
- 生地の「柄」が持つ権利に注意する: ロゴを外しても、そのブランドと一目で分かる「著名な柄(モノグラムやチェック柄など)」を残したまま販売することは、商標権や不正競争防止法に抵触する可能性があります。
- 加工の「程度」に注意する: 「修理(Repair)」の範囲に留まっているでしょうか。用途が変わるほどの加工(Remake)は、法的には「新製品の製造」とみなされる可能性が高いと考えられます。
サステナビリティへの取り組みは、企業の社会的評価を高める素晴らしい活動です。しかし、それが他社の知的財産権を意図せず侵害する形になってしまえば、せっかくの努力がブランド価値の毀損や法的トラブルに繋がってしまいます。
世界的なブランド各社は、自社のブランドイメージを厳格に管理しており、リメイク品への監視を強めています。「これくらいなら大丈夫だろう」という安易な判断を避け、他者の権利を尊重した上で、自社独自の価値をどう付加していくかを検討することが、中長期的なビジネスの成功に不可欠と考えられます。
2026年1月26日 弁理士 松下 智子