SNS時代における商標の使用“アイコン”――47NEWS事件が示したもの
令和7年8月25日の東京地裁判決(発信者情報開示請求事件)(※1)は、
SNS上のアイコンの“出所の誤認”について考えさせられる内容でした。
原告は、「47NEWS(ロゴ)」(登録5071060)の商標権者である一般社団法人共同通信社(以下「共同通信社」という。)。
問題となったのは、SNS「X(旧Twitter)」で、原告の商標とよく似たアイコンや名称を使い、
ニュース見出しと共同通信社の記事リンクを投稿したアカウントです。
アイコン表示の類否だけでなく指定役務についての考え方など、多くの示唆が含まれた判決となっています。
(※1)令和6年(ワ)第70607号 発信者情報開示請求事件
アイコン表示の取引実情が考慮
今回、被告は「47FLASH(ロゴ)」と「47NEWS(ロゴ)」をアイコンとして使用しており、それらのロゴと共同通信社とのロゴとの類否が争われました。
原告の商標から「47NEWS」部分を分離観察することで、被告が使用していたアイコン「47NEWS」と類似する可能性は想定できるかとは思いますが、「47FLASH」部分についてはどのような判断をするのかが気になるところでした。

画像出典:特許情報プラットフォーム
原告の商標<登録第5071060号>https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2006-101754/40/ja
裁判所は、「47FLASH」のアイコンも、役務の出所について誤認混同のおそれがあり、原告の商標と類似すると判断しました。
確かに外観を非常に似せたアイコンでありますが、称呼が異なります。この点について判決では、「視覚的に識別されるアイコン表示として使用される取引の実情に鑑みても・・」と言及しました。
最高裁判決「氷山印事件」において、以下のように取引の実情を踏まえることが言及されておりますが、SNS上で目を引く部分として使用されるアイコン表示の取引の実情を考慮した判断がなされたものと考えられます。
『その外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえ、全体的に考察するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小5 法廷判決・民集22巻2号399頁参照』
ヘッダー部分についても実態を考慮
実際のSNSにおいて、被告のアカウントのヘッダー部分には、原告の「47NEWS」のものではない旨、公式のアカウントではない旨が記載されており、被告は、閲覧者が原告の役務提供と誤認混同するものではない旨を反論しました。
しかしながら、判決では「取引の実情に鑑みると、閲覧者が必ずしもヘッダー部分を見るものとはいえず」と示しており、SNSでは、ユーザーがタイムライン上のアイコンだけで誰が発信した情報なのかを認識することも多いという「SNSの実態」を考慮した判断になったものと考えられます。
この「SNSの閲覧の実態」を考慮して判断している点が印象的であり、アイコン表示においては、このような実態も考慮した使用をすることが必要であり、アイコン表示に何かしら注意すべき点があったときの、ヘッダー部分の記載は、それだけで誤認を避けられるとは限らないという示唆になっているように思います。
「電子出版物の提供」とニュース見出しの投稿の関連性
被告は、SNS上で、ニュース見出しや共同通信社のニュースサイトへのリンクを投稿していましたが、これらの投稿は、原告商標の指定役務「電子出版物の提供」に当たるとはいえないと反論を行いました。
判決では、投稿では記事そのものを掲載していたわけではないものの、以下の点により役務は類似すると認めるのが相当と判断しています。
- インターネット上でニュース記事を提供する者が、当該ニュース記事の概要やリンクを投稿して、その閲覧を誘引することは一般的に行われている
- オンライン上で供覧されるニュース記事の提供そのものであるとはいえないものの、ニュース記事の提供に関連した行為であり、上記取引の実情を踏まえると、当該投稿が同一の者により提供されている役務と誤認を生じるおそれがある
役務の判断においても、取引実情と出所の混同という観点から、役務が類似すると判断されました。
まとめ
最終的に、裁判所は商標の類否及び役務の類否を認め発信者情報の開示を命じました。
今回の判決は、SNS上という取引実情とそれを踏まえた出所混同を考慮した判断であったと考えられます。
商標の使用においては、商標審査上の類否だけでなく、商標を使用する業界の取引実情や出所混同についても配慮した使用の仕方に留意が必要であると感じさせられた事案でした。
2025年11月24日 弁理士 淡路里美