1. HOME
  2. 知財インサイト
  3. 「旧社名」はどう守る?〜『残すと不使用、捨てると模倣』 セコムとベネッセの商標出願データから読み解く、旧社名の守り方〜

Article 知財インサイト

2026.04.06

「旧社名」はどう守る?〜『残すと不使用、捨てると模倣』 セコムとベネッセの商標出願データから読み解く、旧社名の守り方〜

日本取引所グループの「商号変更会社一覧」を参考にすると、上場企業の社名変更は近年増加傾向にあります。2020年から2023年にかけては年間40〜50件程度でしたが、2024年および2025年には70件台にまで達しています。海外展開を見据えた社名にする、業態の拡大や変更に対応すべく社名変更するなど、各社様々な思惑があるとは思います。

直近では、2026年4月にぺんてる株式会社が「アストラム株式会社(ASTRUM CORPORATION)」へと社名を変更したことが話題となりました。プラスグループの一員としてステーショナリー事業の統合とグローバル展開を明確にするという前向きな理由ですが、こうした大規模なリブランディングの裏側で、知財担当者が頭を悩ませるのが「旧社名の商標をどうするか」という問題です。

今回は、社名変更から長い年月が経った「セコム」と「ベネッセ」の商標出願データから見える各社の思惑を推察し、旧名称の商標の扱いについて弁理士の視点から考えてみたいと思います。

なお、本トピックの関連記事として、以下もご参照ください。
「Twitter」商標に不使用取消審判請求 ― リブランディング後の旧ブランド管理リスク

セコム流:合理的な防衛

まずは、1983年に「日本警備保障株式会社」から社名を変更したセコム株式会社のケースです。

商標出願・登録状況を眺めると、非常に効率的な整理の跡が見て取れます 。 かつて社名変更の前後には「セコム/ 日本警備保障」や「SECOM/日本警備保障」といった、新旧ブランドを併記した商標を複数保有していましたが、その多くは2000年代後半から2010年代にかけて「存続期間満了」により権利を抹消されています 。

特筆すべきは、社名変更から40年以上が経過した現在でも、旧社名の単体商標である「日本警備保障」(登録番号:第4268472号)が1件だけ、特に重要となる第42類(警備など)で維持されている点です 。

他の併記商標や古い登録が満了を迎える中で 、この1件を残しているのは、「日本警備保障」という名前を第三者に悪用されないための防壁としての役割を期待しているからではないでしょうか 。コストを最小限に抑えつつ、重要領域の防衛ラインだけは譲らない。非常にスマートで合理的な印象をもちました。

ベネッセ流:歴史と信頼を包み込む防衛

次に対照的なのが、1995年に「福武書店」から社名を変更した株式会社ベネッセホールディングスのケースです。
社名変更から30年以上が経過した現在(2026年3月時点)でも、第9類、16類、35類、36類、39類、41類、42類と、広い範囲で「福武書店」の商標を維持し続けています 。
「福武書店」というルーツを他人に踏み込ませないという、手厚い保護を感じます 。セコムが「集中防衛」なら、ベネッセは「全面展開の防衛」といえるでしょうか。

旧社名に付きまとう不使用リスク

長く旧社名を維持する場合、避けて通れないのが「不使用取消審判」のリスクです。3年以上使っていない商標は取り消される可能性がありますが、「福武書店」のように長期間維持する商標には不使用取消が起こされることもあり、対応が必要になった際に現状使っていない権利を一部手放さなければならないときもあることでしょう。

不使用取消審判を起こされ、仮に第三者がその商標を出願してきたとしても、有名な名称であったものであれば、他者の商標として周知である(商標法4条1項10号など)として、登録が認められない可能性も高いので、まだ保持したい商標である場合は、その間に再度出願するなどの対応も考えられますが、不使用を起こされた後の証拠収集から、再出願が認められるまでの間は商標担当にとって落ち着かない時間となります。

事業部門や広報と連携をとっていつでも現在の旧社名の使用状況がわかるような形にしておく、毎年の商標使用状況の棚卸時にチェックするなど、有事に素早い対応を取れる対策を取っておくことも必要かもしれません。

おわりに

今回は国内の旧社名の扱いに絞って考察しましたが、これが「海外商標の扱い」となると難易度はさらに跳ね上がります。

「集中防衛」も「全面展開の防衛」もどちらが良いというものではありません。どのように防衛していくのかは、旧社名が現在の会社イメージや事業に及ぼす影響を考慮し、また、費用対効果、展開国の情勢による対応など、様々な要素がからみあってくるものとなります。

ぺんてるが新社名に込めた「グローバルな展開」という目標を達成するためには、日本で旧名称を整理する一方で、進出先の国々で「昔の名前」が模倣品に使われないか、不使用対策は、といったさらに複雑な問題をどう扱うか検討する必要があります。国ごとに異なる商標の「定着度」や「商標制度」を考慮した、オーダーメイドの戦略が求めらます。

2026年3月27日 弁理士 淡路里美