≪連載≫ 韓国の商標制度について-外国商標制度その7-
今月は、韓国の商標制度を概観したいと思います。韓国は、距離的に一番近い隣国です。韓国から日本へは、K-POP・ドラマをはじめとしたエンターテインメント、コスメ・美容用品、食品や飲食店など多くのカルチャーや商品・サービスが入ってきており、若い女性をはじめ大人気です。日本も韓国を重要な市場と捉えて、より積極的に韓国に事業展開することが期待されています。
韓国の商標出願は、非常に活発であり、2023年の1年間の商標出願件数は255,209件でした(同時期の日本は164,061件ですので、日本よりも56%程多い計算になります。人口比でみるとその差は更に拡がります。出願件数からは、韓国で商標制度が積極的に活用されていることが窺えます)。
韓国の商標制度は、類似群コードを採用するなど、日本の制度によく似た制度があり、日本の商標制度に近く、比較的理解しやすい制度と言われてきました。しかし、仔細に見ると、相当よく考えられた制度設計になっていることに驚かされます。付与前異議の採用、同意書の審査結果への反映なども、よく考えているなと思います。また、近年、他国にある有用なルールを積極採用してます。真に出願人や権利者に使いやすい商標制度を目指しているようであり、法改正の努力と韓国の商標出願件数は、繋がっているのだと思います。
登録主義、審査主義、先願出願
権利は登録から10年であり、日本と同様に、絶対的登録理由、相対的登録理由が審査されます。他人の商標出願との関係は、先後願を基準に判断する先願主義です。基本骨格は、日本と同様な商標制度です。
出願人名
日本の商標登録出願人名は、ハングルに変換する必要があります。ハングルの社名を検討しないといけないという点は、中国や台湾出願の場合の中国語と同様です。ある程度の規模の企業でも、事業自体は英語でやっていたりして、韓国への商標出願時に、はじめてこの問題に直面する企業も多いと思います。
マドプロ加盟
韓国はマドプロに加盟しています。
優先権
直接出願で優先権を使用する場合は優先権証明書の提出が必要です。
必要書類
直接出願の場合は、委任状の添付が必要です(公証、認証は不要)。
国際分類と指定商品・指定役務の表現と個数
国際分類を採用しています。
また、日本と同様に、類似群コードを採用しています。基本的には個別商品の指定ですが、包括指定ができる商品があります。
指定商品の個数でOfficial Feeが変る仕組みを採用しています。中国やタイと同様です。
類似群コードの細分化
2012年より、類似群コードの細分化が行われ、類似群の数が増加しています。例えば、「コンピュータ」と「コンピュータソフトウェア」は、別の類似群コードが付与されるようになっています。
日本語商標の取扱い
以前は日本語は図形と見る時期もありましたが、日本語の理解に応じて、現在では、平仮名、カタカナ、漢字からなる日本語商標については、英語と同様に、称呼や意味が出てくる文字商標として審査しています。
使用意思の確認
日本と同様に、使用意思の存在が審査されます。
判断基準時
類否判断の基準時は、日本の査定時ではなく、出願時を基準とします。ここは日本と違います。
早期審査
早期審査があります。ただし、日本とは、早期審査のできる条件が、若干、異なります。
同意書制度の導入
日本に少し先行して、同意書制度が導入されましたが、商標同一で商品・役務が同一の、いわゆるズバリ一致(ダブルアイデンティティ)の場合は、同意書では克服できません。
また、類似範囲については、日本と異なり、同意書が提出されると審査官はその当事者の意見に従うことになっています。
異議申立(付与前異議)
出願公告から2カ月間(2025年7月からは、30日に短縮)、何人も異議申立可能です。3名の審査官の合議体で審理されます。
韓国は、日本で採用されている付与後異議は採用しませんでした。(商標では付与後異議は、ドイツ、台湾、日本など少数派です。)
30日に短縮したことにより、早期に商標登録され、審査処理期間の短縮が期待されています。
部分拒絶制度の採用(2023年2月4日からの出願について)
一部に拒絶理由の場合は、特に何もしなくても、拒絶理由のない部分は登録になります。
中国等、諸外国でよくある運用になっています。
再審査請求制度(2023年2月4日からの出願について)
拒絶決定が商品の補正などで簡単に解消できる場合には、審査官に再審査を請求できます。出願人が拒絶決定を克服できる機会を拡大しています。
不服申立
拒絶査定書謄本の送達日から3ヶ月以内に特許審判院に拒絶査定不服審判を請求できます。3名又は5名の審判官の合議体により審理されます。
拒絶査定があった場合、以前は全商品について不服審判請求しなければなりませんでしたが、現在は、一部の商品のみを審判請求でき、また、一部の商品のみを取下げできるになっています。
懲罰的損害賠償(損害以上の賠償額)
故意に商標権又は専用使用権を侵害した者は、損害賠償額の限度額は損害額の3倍となっています(2025年7月からは、3倍は5倍に引きあげられます)。
指定商品追加登録制度
出願後や登録後に、指定商品を追加することが可能です。
証明標章制度
商品・役務の品質(質)等を証明をする者が、他人の商品・役務の品質(質)を証明するために使用させる標章については、証明標章制度があります。
韓国特許庁には産業財産特別司法警察がある
商標権侵害等に対して、捜査権があります。民事だけではなく、刑事を含めて権利者を保護する姿勢を感じます。
韓国特許庁はソウルではない
1998年に他の政府機関とともにソウル江南から大田に移転し、審査官は韓国のほぼ中心に位置する大田(テジョン)で勤務しています。ソウルからKTXで約1時間の距離にあります。
2025年2月25日
弁理士 西野吉徳