コンセント(同意書)制度が適用された商標登録事例
日本で令和6年4月よりコンセント(同意書)制度が導入されてから1年、令和7年4月に初めてコンセント制度が適用された第1号の商標登録が行われました。続いて5月には、コンセント制度が適用された第2号の商標登録も行われています。この2つの事例についてご紹介します。
コンセント(同意書)制度とは?
商標登録制度では、原則として、先行商標と同一又は類似の商標であって、商品・役務も同一又は類似するものについては、登録が認められません。しかし先行商標と似通った商標であっても、実際には、商標自体の類似性の程度、商品や役務の関連性、取引の実情などによっては、消費者が両商標を混同する可能性は低い場合もあると考えられます。
コンセント制度は、先行商標と類似する商標であっても、①先行商標権者のコンセント(承諾)があって、かつ②先行商標と混同を生ずるおそれがない商標について、登録を認める制度となっています。
コンセント制度適用の第1号商標
第1号の商標登録は、令和7年4月7日登録の商標「玻璃」(登録第6916217号)です。
先行商標登録は、「玻璃\HARI」(登録第5991116号)です。
- 本願商標(後願) 登録第6916217号

出願人:株式会社車多酒造
指定商品:第33類「清酒、焼酎」等
- 先行商標 登録第5991116号

権利者:シャディ株式会社
指定役務:第35類「酒類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」等
※画像出典:特許情報プラットフォーム
本願出願人の株式会社車多酒造は、江戸時代創業の老舗酒造、一方、先行商標権者のシャディ株式会社は、カタログギフトのサービスを提供する会社です。
本願は、特許庁から先行商標と類似の拒絶理由通知が出るよりも前に、上申書によってコンセント制度の適用を主張する旨の書類が提出されました。その後、拒絶理由通知を受けることなく、登録が認められています。
提出書類には、先行商標権者の承諾書ほか、先行商標と混同を生ずるおそれがないことを明らかにする資料として、出願人・先行商標権者間の合意書と両者の業務内容に関する資料がありました。
具体的には、合意書には、 ①出願人は、商品に直接貼り付けるラベルについて出願商標を使用すること ②先行商標権者は、酒類の小売等役務を提供するためのギフト用カタログに先行商標を使用し、出願人は、本願商標を指定商品(清酒、焼酎 等)にのみ使用するものとする といった旨が記載されています。
先行商標と本願商標は同じ文字列「玻璃」を有しており、商標の類似度は比較的高いと思われます。しかし、上記のように酒造メーカーとカタログギフト業といった商品・サービスの違いについて、混同を生ずるおそれがないことが肯定的に判断され、登録が認められたものと推測されます。
コンセント制度適用の第2号商標
第2号の商標登録は、令和7年5月13日に登録の商標「グラングリーン大阪 THE NORTH RESIDENCE」(登録第6927596号)です。
先行商標登録は、「GRAND GREEN OSAKA\グラングリーン大阪」(登録第6568955号)です。
- 本願商標(後願) 登録第6927596号

出願人:積水ハウス株式会社 他7社 (計8社の共願)
指定役務:第36類「建物の管理」等
- 先行商標 登録第6568955号

権利者:三菱地所株式会社 他8社 (計9社の共願)
指定役務:第36類「建物の管理」等
※画像出典:特許情報プラットフォーム
本願商標は8社の共同出願、一方、先行商標は9社の共同出願です。両者は8社が共通しているものの1社が異なっているため、出願人が異なるとして先行商標と類似の拒絶理由が通知されました。
なお本願の拒絶理由通知には、『出願人(8社共願)と引用の商標権者等(9社共願)が一致したときにはこの拒絶理由は解消します。』との記載もありました。この記載通りに出願人を一致させる手続を行うことで拒絶を解消する方法もあったと考えられますが、本件についてはコンセント制度の適用を主張して登録が認められています。
本件の意見書では、先行商標権者9社の承諾書にくわえ、混同を生ずるおそれがないことについては、先行商標と本願商標で出願人が1社異なるものの、両商標に共通する「グラングリーン大阪」は大阪市北区のうめきた地区の開発プロジェクトの名称であり、両商標は同じプロジェクトのもとの事業の役務に使用されるものであるので、そもそも混同が生じることがない旨が主張されていました。また異なる1社も、本願商標の出願人のうちの1社の親会社である点も、併せて主張されています。このような事情を総合的に判断され、コンセント制度による登録が認められたと推測されます。
まとめ
第1号の事例は、先行商標と後願商標の使用される商品・サービスが明確に区別されていることから、混同を生じないことが主張されたケース、 第2号の事例は、出願人が一部異なるものの大方共通しており、先行商標と後願商標が同じ事業に使用されることから、混同を生じないことが主張されたケースでした。 このようにコンセント制度は、今までは先行商標と類似の拒絶対象となっていたような様々なケースに活用できることが期待されます。
先行商標権者の同意書だけではなく、先行商標と後願商標の混同を生ずるおそれがないことを証明する必要があって、特許庁の判断次第となる点には注意が必要ですが、先行商標権者と出願人との関係によっては、コンセント制度も1つの選択肢となり得るでしょう。 本記事執筆時点で確認できたコンセント制度による登録事例はまだ2件ですが、今後コンセント制度が適用される商標登録が増えていくことが見込まれます。
2025年5月26日 弁理士 松下智子